AI時代の新規事業開発はどう変わる?生成AIがもたらす可能性と課題

AI時代の新規事業開発はどう変わる?生成AIがもたらす可能性と課題
2025年1月28日

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「AIが仕事を奪うのでは?」という不安を感じる方も多いかもしれませんが、一方で「AIと共創することで生まれる新たな価値」に期待を寄せる人も増えてきています。とりわけ近年注目されているのが、従来よりも高度な文章生成やデータ分析が可能になった「生成AI」です。今回は、この生成AIが新規事業開発にどのような影響をもたらし、私たちがどんな視点で活用していくとよいのかを考えてみたいと思います。

生成AIの登場で変化する“ボトルネック”|アイデアを“生み出す”よりも“評価・選択”が重要に

かつては、アイデアを生み出すことがもっとも時間と労力を要する“知的生産のボトルネック”でした。しかし、生成AIは膨大なデータを元に素早く文章やデザインの案を提示してくれます。つまり、アイデアの“量”を増やすのは機械に任せてしまうことが可能になり、人間はそこから「使えるもの」「ユニークなもの」「実現性の高いもの」を選別し、再調整する工程に力を注げるようになったのです。

これは、製造業における自動化と似た変化とも言えます。かつて工場では「どう生産量を増やすか」が最重要課題でしたが、自動化により生産量を大幅に拡大できるようになると、今度は「どの製品の品質をどう高めるか」や「どの市場に向けた製品を作るか」といった、より戦略的な意思決定が課題の中心に移りました。生成AI時代の新規事業開発も、同様に「アイデアの質を高めるための評価・選択、そして意思決定」が重要になっていくのです。

データ分析の効率化と戦略的アプローチ|“気付き”から“実行”へ

新たな事業を生み出すためには、「自分たちがいま持っているリソースをどう活かすか」を考えるだけでなく、「市場はどう動いているのか」「競合他社はどんな戦略を取っているのか」「ユーザーの潜在ニーズは?」といった周辺情報を集め、分析する必要があります。これまでは、一から関連論文や業界リサーチを行い、多大な時間と労力をかけていた企業も多いでしょう。しかし生成AIを活用すれば、大量の文章を一気に読み解き、要点を素早く抽出することが可能になります。

こうした分析結果をもとに、どの領域でビジネスを展開するかを決めたり、どのようなユーザー向けのサービスが最適かを考えたりする工程も、AIの助けを借りることでスピードアップが図れます。もちろん最終的な判断は人間が下す必要がありますが、「分析段階で得られた示唆」を踏まえながら素早く意思決定を行い、開発サイクルを回せるのは大きなメリットでしょう。

さらに最近では、「Invent Cycle」と呼ばれる独自の方法論を確立し、企業に実行可能なビジネスソリューションを提供している事例もあります。たとえばQualitegは、大企業やシリコンバレーでの豊富な新規事業開発の経験をもつ専門家が参画し、戦略と実務を融合させた形で新規事業を加速しています。AIを活用したデータ分析はもちろん、これまでの知見をベースに全体の方向性を設計することで、“ただの思いつき”に終わらない、持続可能なビジネスモデルを生み出すのです。

AI時代だからこそ問われる倫理観と社会的インパクト

一方で、AI技術の進化に伴って「倫理的な課題」や「社会的影響」への配慮がますます重要になっています。AIは膨大なデータを扱うため、プライバシーや差別の問題が顕在化するリスクがあります。また、生成AIは誤情報や偏ったデータを学習し、そのまま外部に出力してしまう可能性もあるでしょう。こうした点は、“人間が最終的な監督責任を負う”という意識を常に持ち続ける必要があります。

企業が新規事業を立ち上げる際も、ただ利益だけを追求するのではなく、ステークホルダー全体に与える影響を踏まえたうえで判断を行わなければなりません。国や業界団体が定めるガイドラインや規制の動向に注意を払うことはもちろん、社会からの信用を得るためにも、透明性の高い情報開示やリスクへの事前対策が求められています。AI時代だからこそ、技術のすばらしさだけでなく、倫理観や責任感を伴う活用が不可欠なのです。

生成AIと共創しながら、“人間ならでは”の価値を形にする

生成AIの台頭によって、私たちの新規事業開発は大きく変わろうとしています。アイデアの“量”は機械が生み出してくれるようになり、人間はそれを評価・選択し、さらに“どこで勝負するか”という戦略的な意思決定に力を注ぐ必要が出てきました。大量の情報からビジネスチャンスを迅速に見つけることができる一方で、その技術が社会に与える影響や倫理的側面にも配慮することが欠かせません。

AIとの協働により生産性が飛躍的に向上するのは間違いありませんが、最終的に「どんな未来を創りたいのか」を描くのは人間です。生成AIをうまく活用しながら、新たな事業の可能性を広げつつ、私たちにしか担えない責任と創造性を発揮していく――AI時代の新規事業開発は、まさにその“ハイブリッドな価値創造”の舞台なのかもしれません。

芝先 恵介

芝先 恵介

メンター|生成AIスペシャリスト

外資系業務ソフト会社を経て2002年に起業、代表に就任。2013年に会社を売却し、翌年からスタートアップや大企業の新規事業立ち上げ支援に尽力。大学や公的機関での非常勤講師、DXアドバイザー、中小企業アドバイザーとしても活躍中。現在は、(株)01STARTを設立し、新規事業開発や営業DXのコンサルティング、生成AIに関するセミナーに数多く登壇。

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