「人間らしさ」を手に入れた働くロボット──SFの世界から倉庫の現場へ

「人間らしさ」を手に入れた働くロボット──SFの世界から倉庫の現場へ
2025年3月21日

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あなたの隣で働く同僚が、実はロボットだったら──。

かつてSF映画の中だけの存在だった人型ロボット(ヒューマノイド)が、いつの間にか現実世界で働き始めています。アメリカのある倉庫では、「ディジット」と名付けられた二足歩行ロボットが、コンクリートの床を小刻みに歩き、商品の入った箱を取り出してベルトコンベヤーまで運んでいます。その姿はまるで、未来から来た新入社員のよう。

映画『ターミネーター』や『スター・ウォーズ』に登場するロボットたちが現実になる日は、思っていたより早く訪れるかもしれません。でも安心してください。彼らの目的は人間を倒すことではなく、人間の仕事を手伝うことなのです。

なぜ今、人型ロボットなのか?

「人型ロボットなんて、作るのが難しくて高いし、動きも遅いしぎこちない」

つい最近まで、専門家たちはそう考えていました。工場や倉庫では、特定の作業に特化した産業用ロボットアームや、車輪付きの搬送ロボットがすでに活躍しています。わざわざ人間の形をしたロボットを作る必要があるのでしょうか?

実は、人間のカタチには大きなメリットがあるのです。

私たちの世界は、人間のために作られています。階段、通路、肩の高さの棚、目線の高さの表示…すべてが人間の体のサイズや形に合わせて設計されています。つまり、人型ロボットなら、環境を変えることなく、今ある世界にスムーズに溶け込めるのです。

「人型ロボットは、業務のニーズやシフトの時間帯に応じて全く異なる作業を行える初のロボットのカテゴリーだ」と、物流大手GXOロジスティクスの最高自動化責任者、エイドリアン・ストック氏は語ります。「将来的には、ディジットが午前にトレーラーの荷降ろしをし、午後には商品のピッキングを行い、夕方にはトラックの積み込みを行うことも考えられる」

一つのロボットが多くの仕事をこなせるなら、導入コストを回収しやすくなります。まさに「一石二鳥」、いえ「一石多鳥」というべきでしょうか。

AIの進化がロボットを変えた

しかし、いくら体が人間に似ていても、頭脳がなければ役に立ちません。ここで登場するのが、近年急速に進化したAI(人工知能)技術です。

ChatGPTを開発したOpenAIや、半導体大手NVIDIAなどの企業が開発する最新のAI技術によって、ロボットの「脳」は格段に賢くなりました。

「汎用ロボットにとってチャットGPTのような瞬間がすぐそこまで来ている」とNVIDIAのジェンスン・フアンCEOは述べています。人間の監督がほとんど必要ない自律型ロボットの登場が、すぐそこまで来ているということです。

ロボットの動画でおなじみのボストン・ダイナミクスは、この進化を象徴する企業です。1992年にマサチューセッツ工科大学から独立した同社のロボット制御システムは、創業当時は原始的なものでした。しかし今日では、プログラミングではなく「訓練」によって学習するAIが着実に組み込まれています。

現場で働くヒューマノイドの今

実際の製造現場で本物の仕事をする人型ロボットを稼働させた米国初の企業であるアジリティ・ロボティクス。同社のロボット「ディジット」は、すでに物流センターで働いています。

ただし、現時点での人型ロボットの能力はまだ限られています。スパンクスの倉庫で稼働中のディジットはわずか2体にとどまります。物流業界に真の意味で普及するためには、さまざまな作業を自動化する必要があり、それには多様な種類のロボットが求められるかもしれません。

人型ロボットの研究で豊富な経験を持つオハイオ州立大学のアヤンナ・ハワード氏も、将来的にはロボットの形状が多様化し続ける可能性が高いと考えています。

アプトロニクスのジェフ・カルデナスCEOは、最も多用途に使えるロボットは、車輪や四本足などあらゆるプラットフォームの上に設置できる、アームと頭部を備えた胴体になると予想しています。

つまり、未来のロボットは「完全な人型」にはこだわらないかもしれません。外見よりも、「人間のように考える」という意味での「人型」が重要になるのかもしれないのです。

人間とロボット、これからの関係

映画『アイ、ロボット』や『エクス・マキナ』のような作品では、高度に発達したAIを持つロボットが人間に反旗を翻すシナリオが描かれてきました。でも現実は、今のところそれほど劇的ではありません。

今日の人型ロボットは、人間の仕事を完全に奪うというより、人間にとって単調で負担の大きい作業を代わりに行う「共同作業者」として位置づけられています。

「ロボット工学の課題は常にその経済性だった」とアプトロニクスのカルデナスCEOは語ります。つまり、ロボットが普及するかどうかは、最終的にはコストパフォーマンスにかかっているのです。

スマートフォンやパソコンが私たちの生活に欠かせないツールになったように、人型ロボットもいずれ当たり前の存在になるかもしれません。その日が来たとき、私たちはロボットとどのような関係を築いていくのでしょうか。

SFの世界から現実世界へ。人型ロボットの本格的な活躍はまだ始まったばかりですが、その歩みは着実に進んでいます。ひょっとすると、数年後には「ロボット同僚」との仕事の思い出を語り合う日が来るかもしれませんね。

参照:ヒト型ロボット、ついに本物の仕事に就く

芝先 恵介

芝先 恵介

メンター|生成AIスペシャリスト

外資系業務ソフト会社を経て2002年に起業、代表に就任。2013年に会社を売却し、翌年からスタートアップや大企業の新規事業立ち上げ支援に尽力。大学や公的機関での非常勤講師、DXアドバイザー、中小企業アドバイザーとしても活躍中。現在は、(株)01STARTを設立し、新規事業開発や営業DXのコンサルティング、生成AIに関するセミナーに数多く登壇。

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