中国AIの快進撃から見える未来 |自律型AIが私たちの生活を変える?

中国AIの快進撃から見える未来 |自律型AIが私たちの生活を変える?
2025年3月21日

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「ねえ、ChatGPT。今日の天気は?」

最近では、こんな会話を交わす光景がすっかり日常になりました。でも、もしAIが「質問される」のを待たずに、勝手に天気を調べて「今日は傘を持って行った方がいいですよ」と言ってくるとしたら?あるいは、あなたのスケジュールを見て「15時の会議の資料がまだ準備できていませんね。作成しておきましょうか?」と提案してくるとしたら?

そんなSF映画のような世界が、実は目の前まで来ているのです。

中国AI企業の驚異的な躍進

米大手ベンチャーキャピタル・アンドリーセン・ホロウィッツが3月上旬に発表した生成AI(人工知能)アプリのランキングによると、中国DeepSeekの「DeepSeek」がOpenAIの「ChatGPT」に次ぐ2位に入りました。

これは単なる順位の話ではありません。DeepSeekは今年1月にサービスを開始してからわずか20日間でユーザー数1000万人を突破したのです。ChatGPTが同じユーザー数に到達するのに要した時間の約2倍のスピードです。驚異的な成長と言えるでしょう。

さらに注目すべきは、トップ20内に中国発のAIサービスが5つもランクインしていること。バイトダンスの「豆包(Doubao)」、Moonshot AIの「Kimi」、MiniMaxの「海螺視頻(Hailuo AI)」、快手科技の「可霈(Kling)」と、多彩なプレイヤーが台頭しています。

対照的に、日本発のAIサービスはトップ50にすら入っていません。この現実は、AIの世界における「中国の台頭」と「日本の遅れ」を如実に示していると言えるでしょう。

自律型AI「Manus」の衝撃

しかし、これらはまだ序章に過ぎません。本当の革命は、3月6日に中国で発表された「Manus(マヌス)」という完全自律型AIエージェントかもしれません。

Manusの特徴は何でしょうか?それは「人間からの指示を待たない」という点です。現在のChatGPTやGeminiは、私たちが何か質問しなければ何も答えません。しかしManusは違います。自ら考え、判断し、行動する能力を持っているのです。

例えばManusは、金融取引の分析から求人候補者の選定まで、人間の監視なしで意思決定を行うことができるとされています。それも「熟練した専門家でさえ追いつくのが難しい速度と正確さで」です。

想像してみてください。朝起きたら、AIが「今日の株式市場はやや不安定なので、保有株の10%を安全資産に移すことをお勧めします。承認いただければ即時実行します」と提案してくる世界を。あるいは、履歴書を一切見ることなく、自社に最適な人材を自動的に選び出し、面接の日程まで調整してくれるAIを。

これは単なる「便利なツール」ではなく、私たちの仕事の仕方、生活の仕方を根本から変える可能性を秘めています。

なぜ中国がAI開発で躍進しているのか

では、なぜ中国はAI開発でこれほどの成果を上げているのでしょうか?

まず第一に、国家レベルでの戦略的投資があります。中国政府は2017年に「次世代AI発展計画」を発表し、2030年までに世界のAI大国になることを目標に掲げました。これに基づき、莫大な資金が研究開発に投入されています。

第二に、14億人という巨大な国内市場の存在です。これはAIの学習データとなるユーザー情報の宝庫であると同時に、新しいサービスを試す「実験場」としても機能します。DeepSeekがわずか20日で1000万ユーザーを獲得できたのも、この市場規模あってこそでしょう。

第三に、人材育成の徹底です。中国では毎年数十万人のコンピュータサイエンス専攻の学生が卒業し、その多くがAI関連企業に就職しています。量と質の両面で、AI開発を支える人的基盤が整っているのです。

これらの要素が組み合わさることで、中国のAI企業は海外展開前に十分な資金と技術を蓄積し、世界市場に進出する足がかりを得ています。

日本はどうすべきか

このような状況を前に、日本はどのような戦略を取るべきでしょうか。

残念ながら、現状では日本のAI開発は中国やアメリカに大きく水をあけられています。その理由の一つは、「ハード中心」の古い発想から抜け出せていないことにあるでしょう。半導体やロボットなどの物理的な技術には強みを持つ日本ですが、ソフトウェアやAIといった分野では遅れを取っています。

また、大企業中心の産業構造も、ベンチャー企業が主導するAI革命には適していません。リスクを取ることを恐れる文化が、大胆な投資や挑戦を妨げているのかもしれません。

しかし、悲観する必要はありません。日本には、高度な教育システム、洗練された消費者、そして「おもてなし」に代表されるきめ細やかなサービス精神があります。これらを活かせば、例えば「人間らしさ」や「文化的背景への理解」を大切にした独自のAIサービスを開発することも可能でしょう。

自律型AIが変える未来

DeepSeekやManusのような中国発のAIの台頭は、単に「中国vs日本」という国家間競争の話ではありません。それは私たち一人ひとりの生活や仕事がどう変わるのかという、より普遍的な問いを投げかけています。

自ら考え行動するAIが普及すれば、私たちはより多くの時間を創造的な活動に使えるようになるかもしれません。日々の雑務から解放され、本当にやりたいことに集中できる世界。それは悪くない未来像ではないでしょうか。

一方で、「AIに任せすぎて人間が無能化する」「AIの判断を盲信して大きな失敗をする」といったリスクも考えられます。自律型AIが私たちの生活に入り込めば入り込むほど、「AIとどう付き合うか」という問いは重要になるでしょう。

最終的には、AIをコントロールするのも、AIに使われるのも、私たち自身の選択次第です。中国やアメリカの動向を冷静に観察しながら、日本独自の「人間とAIの共存」のあり方を模索していくことが大切なのではないでしょうか。

技術の進化は止まりません。問われているのは、その波に乗る私たちの姿勢なのです。

芝先 恵介

芝先 恵介

メンター|生成AIスペシャリスト

外資系業務ソフト会社を経て2002年に起業、代表に就任。2013年に会社を売却し、翌年からスタートアップや大企業の新規事業立ち上げ支援に尽力。大学や公的機関での非常勤講師、DXアドバイザー、中小企業アドバイザーとしても活躍中。現在は、(株)01STARTを設立し、新規事業開発や営業DXのコンサルティング、生成AIに関するセミナーに数多く登壇。

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