Google Meetの日本語文字起こし対応で変わるビジネスの形

Google Meetの日本語文字起こし対応で変わるビジネスの形

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「あれ?議事録取ってなかった…」と会議後に慌てた経験、ありませんか?そんな悩みを解決する朗報です。Googleが3月12日、オンラインビデオ会議サービス「Google Meet」の文字起こし機能が日本語を含む7カ国語に新たに対応したことを発表しました。さらに、録音された会議の字幕機能も日本語を含む3カ国語に対応。この新機能により、私たちの働き方はどう変わるのでしょうか?また、文字起こしビジネスの未来にはどんな影響があるのでしょうか?

いよいよ本格化する日本語対応の波

「え、今までなかったの?」と思われる方もいるかもしれませんが、日本語の文字起こしは英語に比べて精度の壁が高く、主要サービスでの対応が遅れていました。今回のGoogle Meetの対応は、日本語を含むフランス語、ドイツ語、イタリア語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語という非英語圏にとって大きな進歩といえます。

会議中に自動で書き起こされた内容は、会議主催者の「Google ドキュメント」に保存され、会議終了後にすぐ確認できるようになります。ただし、この機能はPC利用時のみとなっているので、スマホやタブレットからの利用を考えている方は注意が必要です。

また、自動生成された字幕を録画に含める機能も日本語、イタリア語、韓国語に拡大。「あのとき何て言ってたっけ?」という瞬間も、字幕付きの録画で簡単に確認できるようになります。

既存の文字起こしサービスに激震?

この発表を聞いて、「文字起こしビジネスの終わりの始まりか」と心配する声もあるでしょう。確かに、Googleのような巨大プラットフォームの参入は市場に大きな影響をもたらします。しかし、実際には「完全なディスラプション(破壊的変革)」というより「市場の再編」が起きると見るべきでしょう。

なぜなら、汎用的な文字起こしと専門的な文字起こしでは求められる精度や理解度が大きく異なるからです。例えば、医療現場での専門用語や法律用語、金融用語などが飛び交う会議では、その分野特有の言い回しや略語を正確に理解できないと、文字起こしの価値は大きく下がってしまいます。

ある製薬会社のミーティングでこんな会話があったとします: 「PⅢの結果次第でNDAの提出時期を前倒しにしたいね」

一般的な文字起こしツールでは「ピースリーの結果次第でエヌディーエーの提出時期を前倒しにしたいね」となるかもしれませんが、これが「フェーズ3臨床試験の結果次第で新薬承認申請の提出時期を前倒しにしたい」という意味だと理解できるのは、専門知識を持ったシステムだけです。

生き残るのは「ミドルデータ戦略」を持つ企業

これからのAIビジネスの成功の鍵は「1次ミドルデータ×AI機能」という方程式にあります。ここでいう「1次ミドルデータ」とは、ニッチすぎず汎用すぎない、特定業界の文脈や専門用語を含むデータのこと。

例えば:

  • 製薬業界では臨床用語や薬事関連の専門用語
  • 金融分野では投資用語や市場分析に関する専門用語
  • 法律事務所では判例や法律条文に関連する専門的な言い回し

これらの専門性の高い分野では、文脈理解や専門知識の組み込みが重要な競争優位性となります。Google Meetのような汎用サービスでは対応しきれない、深い業界理解を武器にした文字起こしサービスには、依然として大きな市場価値があるでしょう。

未来の働き方はどう変わる?

Google Meetの日本語文字起こし対応は、私たちの働き方にどんな変化をもたらすでしょうか?

まず、会議の効率化が進むでしょう。「議事録を取る係」を決める必要がなくなり、全員が対等に議論に参加できるようになります。また、聴覚障害を持つ方々の会議参加のハードルも下がり、より包括的な職場環境づくりにも貢献します。

次に、振り返りの質が向上します。「あのアイデア、なんて言ってたっけ?」という場面で、録画と文字起こしを組み合わせれば、重要なポイントを見逃すリスクが減ります。

さらに、会議の透明性も高まります。参加できなかったメンバーも、文字起こしデータを見れば会議の流れを把握できます。これにより、情報格差が減少し、チーム全体の意思決定の質が向上するでしょう。

明日からのビジネスに活かすヒント

では、明日からのビジネスにこの変化をどう活かせばいいのでしょうか?

  1. 専門性を磨く:汎用AIとの差別化を図るため、特定領域での専門性を高めましょう。業界特有の言い回しや文脈を理解できるシステム構築が価値を生みます。
  2. 大手プラットフォームとの協業を検討:敵対するのではなく、GoogleやMicrosoftなどの大手プラットフォームが提供する基本機能の上に、専門的な付加価値を乗せるビジネスモデルを考えましょう。
  3. データの質にこだわる:AIの精度向上には質の高いデータが不可欠です。特定分野の「ミドルデータ」を収集・整備することが、将来の競争力につながります。

文字起こしビジネスは終わりではなく、より専門的で高度な段階へと進化しているのです。Google Meetの新機能は脅威ではなく、市場全体を拡大し、新たなビジネスチャンスを生み出すきっかけになるかもしれません。特定領域での深い理解を武器に、汎用AIでは実現できない価値提供を目指していきましょう。

芝先 恵介

芝先 恵介

メンター|生成AIスペシャリスト

外資系業務ソフト会社を経て2002年に起業、代表に就任。2013年に会社を売却し、翌年からスタートアップや大企業の新規事業立ち上げ支援に尽力。大学や公的機関での非常勤講師、DXアドバイザー、中小企業アドバイザーとしても活躍中。現在は、(株)01STARTを設立し、新規事業開発や営業DXのコンサルティング、生成AIに関するセミナーに数多く登壇。

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