世界中の人々はAIをどう使っている？400万件のデータが示すリアルな利用実態

「AIに仕事を奪われる！」「これからはAIの時代だ！」

SNSやニュースを開けば、AIに関する様々な意見や予測が飛び交っています。でも、実際のところ、人々は本当にどんな風にAIを使っているのでしょう？ 私たちが日々目にする予測や憶測の向こう側に、データで裏付けられた利用実態があります。

アンソロピックという企業が最近発表した調査結果が、そんな疑問に明確な答えを示してくれています。なんと400万件以上のユーザーとAIの対話データを分析した大規模な調査なのです。これほど実際の利用データに基づいた調査は珍しく、今のAI利用の現実がデータとして明らかになりました。

意外？当然？AI利用の実態トップ3

まず気になるのは、「どんな仕事でAIが使われているのか」ですよね。

調査結果によると、AI利用のトップはプログラミングやテクニカルライティングなどのコンピューター関連業務で、全体の37.2%を占めています。言ってみれば、デジタルな仕事が圧倒的多数というわけです。

スマホを触りながら「まあ、そりゃそうだよね」と思った方も多いのではないでしょうか。テキストを生成したり、コードを書いたりするのがAIの得意分野ですからね。

では、具体的な利用分野のランキングを見てみましょう：

1. コンピューター関連業務（プログラミング、テクニカルライティングなど）：37.2%
2. アート、デザイン、エンターテインメント、メディア関連：10.3%
3. 教育・図書館関連（学術研究、教材作成など）

一方で、農業、漁業、林業といった肉体労働が必要な職種でのAI活用はわずか0.1%とかなり低調。医療支援、建設、運送などの物理的な作業が必要な職種でも同様の傾向が見られました。

「ふーん、だからロボットじゃなくてAIなんだね」

そう、現在のAI技術はテキストベースの処理が得意分野。だから物理的な作業が必要な仕事では、まだまだ人間の出番が多いというわけです。

思わず「えっ」と声が出る収入とAI利用の関係

あなたは「AIを使いこなすのは高収入の人たち」だと思いますか？それとも「低収入層ほどAIに頼っている」と考えますか？

実は両方とも正解ではないんです。

調査によると、年収5万ドルから12万5000ドル（約750万円から1875万円）の中間層でAI活用が最も進んでいることが判明しました。つまり、超高収入層でも低収入層でもなく、いわゆる「普通の会社員」レベルでAIの利用が最も活発なんです。

これって意外ですよね？一般的には「最先端技術は富裕層から」とか「単純作業の代替として低所得層がAIを使う」というイメージがあったかもしれません。でも実際は、中間層の方々がAIを「仕事の効率化ツール」として取り入れているようです。

また、職業訓練の必要度（Job Zone）による分析では、学部卒業程度の準備が必要なJob Zone 4での活用率が最も高く、最小限の準備で済むJob Zone 1や、高度な専門教育が必要なJob Zone 5では相対的に低い結果となっています。

つまり、「ちょっと専門的だけど超難しくはない」仕事で、AIの活躍が目立つというわけです。

AIは「置き換え」ではなく「パートナー」だった

「AIが人間の仕事を奪う」

この言葉、どこかで聞いたことありますよね。でも、この調査結果を見ると、そんな心配はあまり必要なさそうです。

なんと、AIとの対話の57%が「オーグメンテーション（拡張・増強）型」の利用だったのです。つまり、人間の能力を補完・拡張するためにAIが使われているんですね。一方、タスクを完全に自動化する「オートメーション型」の利用は43%にとどまりました。

もう少し詳しく見てみましょう。AI利用パターンのトップは「タスクイテレーション（反復的なタスク）」で全体の31.3%。これは人間とAIが対話を重ねながら成果物の質を高めていく使い方です。特にウェブサイトのフロントエンド開発やUI改善、ビジネス文書の作成などで多く見られました。

次いで「ラーニング（学習）」が23.3%で、教育コンテンツの作成や技術的な概念理解の補助として活用されているようです。

一方、完全な自動化を目指す利用パターンでは、「ディレクティブ（指示）」型が27.8%、「フィードバックループ」型が14.8%となっています。特にコーディングや文書作成の分野で、AIに直接タスクを委託するケースが目立つようです。

でも研究チームは「チャットウィンドウ外でのユーザーによる編集や調整が考えられることから、実際のオーグメンテーション型利用の割合はさらに高い可能性がある」と指摘しています。

つまり、AIは「人間の代わり」というより「人間のパートナー」として活躍しているわけです。これって、ちょっと安心できる話ではないでしょうか？

プライバシーを守りながら400万件もの会話を分析？その秘密は

ちょっと待って、「400万件以上の会話を分析」って、プライバシーは大丈夫なの？と思った方もいるでしょう。

実はアンソロピックは、プライバシー保護と大規模データ分析を両立させた独自のシステム「Clio」を活用しています。このシステムは、ユーザー会話を匿名化した形で分析し、個人情報を保護しながら実際のAI利用パターンを把握することを可能にしたのです。

さらに米労働省のONETデータベース（約2万の職務タスクを体系的に整理したデータベース）と連携。これにより、プライバシーを保護しながら、どの業務でAIが活用されているのかを詳細に分析することができました。

また、会話内容を要約・分類する際には、個人情報の除去やデータの集約をAIにより自動的に行い、プライバシー保護を徹底。特に会話クラスタリングの手法では、類似した会話を集約することで、個別の会話内容を参照することなく、全体的な利用傾向を把握することに成功したとのことです。

これからのAI活用、あなたならどう使う？

アンソロピックはこの調査発表直後、最新モデルのClaude 3.7 Sonnetと、ハイブリッド推論モデルとなるClaude 3.7 Sonnet（thinking）をリリースしました。AIの進化は止まることを知りません。

今回の調査結果を踏まえると、AIは「人間の仕事を奪う脅威」というより「人間の能力を拡張するパートナー」として捉えるべきなのかもしれません。特に、中間所得層での積極的な活用は、AIが特別な存在ではなく、ちょうどスマホやパソコンのような「便利なツール」として定着しつつあることを示しているようです。

あなたの周りでも、レポート作成やプレゼン資料の下書き、アイデア出しなどにAIを活用している人が増えているのではないでしょうか？

調査結果が示すように、AIとうまく対話しながら成果物の質を高めていく「タスクイテレーション」型の利用が今後も主流になっていくでしょう。完全に任せるのではなく、対話を重ねながら良いものを作り上げていく。そんなAIとの新しい関係性が、これからのスタンダードになるのかもしれませんね。

AIと人間、競争ではなく共創の時代がやってきています。あなたはどんな風にAIを「パートナー」として活用していきますか？