「イヤホンを探して」から「購入完了」まで ― ChatGPTの本命機能が買い物の常識を変える

「ねえ、今おすすめのワイヤレスイヤホン教えて。高すぎないやつがいいな」

スマホでネットサーフィンをしていた私は、ふと思いついてChatGPTにこう尋ねてみました。すると、これまでとは違う画面が表示されたんです。商品の写真が横にスクロールできるカルーセル形式で並び、それぞれの特徴や価格が簡潔にまとめられています。気になる商品をタップすれば、レビューや購入リンクまでスムーズに見られるという…。

これが、2024年4月28日にOpenAIが突如発表した、ChatGPTの新機能「ショッピング（お買い物）」です。一見シンプルなこの新機能、実はAIの世界では「超本命」とも言える大きな一歩なんです。

AI検索がもたらす「買い物革命」の始まり

みなさんは商品を買う前、どうやって情報を集めていますか？

「まずはGoogleで検索して、いくつかのサイトを見比べて…」 「Amazonのレビューをチェックして…」 「比較サイトで機能や価格を調べて…」

こんな風に、私たちは複数のサイトを行ったり来たりしながら情報収集していますよね。でも、この新しいAI検索の世界では、そのすべてが一カ所で完結してしまうんです。

ChatGPTの「お買い物」機能を使えば、商品の選定から比較、レビューのチェック、そして実際の購入まで、AIとの会話の流れの中ですべて済ませることができます。しかもAIは、あなたの過去の検索履歴や好みを学習してくれるので、より的確な提案をしてくれるようになるんです。

「一度、AI検索を使いこなすと、従来の検索に戻ることはない」

AI向けSEOを専門にする米ZipTie共同創業者のトメク・ルドズキ氏はこう断言しています。確かに便利さを知ってしまうと、元には戻れないかもしれませんね。

「広告なし」を貫くOpenAIの野望

ところで、なぜこの機能がOpenAIにとって「本命」なのか、気になりませんか？

実は、OpenAIは大きな赤字を抱えているんです。ChatGPTの課金ユーザーは急増しているものの、AIモデル開発に用いるGPUのレンタル料や人件費が膨大で、なんと約7000億円もの赤字と言われています。

そんな中、収益の柱として期待されるのが「AI検索」です。OpenAIによれば、すでに先週だけで「10億回の検索」が行われたといいます。つまり、多くの人がChatGPTを通して情報を探しているわけです。

ここで興味深いのが、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏の考え方。彼は「検索結果の表示順位を変えるためにお金を受け取るようなことは決してしません」と明言する一方で、「AI検索を通じて見つけた商品を購入した場合、2%程度のアフィリエイト手数料を請求する」というビジネスモデルに前向きな姿勢を示しています。

つまり、グーグルのような「広告ビジネス」ではなく、「購入時の手数料」で収益を上げようとしているんですね。この「広告なし」というスタンスは、ユーザーにとっては公平で信頼性の高い検索結果を期待できるという意味で、大きなメリットかもしれません。

グーグルvs ChatGPT – 検索の覇権争い

とはいえ、検索といえばやはりグーグルの牙城です。

毎日85億件もの検索をさばくグーグルは、いまだに約90%のシェアを誇っています。一方、ChatGPTの検索シェアは2%前後と言われていますから、その差は歴然としています。

しかし、グーグルも黙ってはいません。「AI Overview（AIによる概要）」という機能を導入し、すでに月間15億人以上のユーザーを獲得。特定の検索ワードに対して、検索結果の最上部にAIによるまとめ文を表示するようになりました。

これについてグーグルのピチャイCEOは「検索の健全性と成長のために重要」と強調していますが、これまでSEOで上位表示されていたサイトや広告主からは「自分たちのサイトが見えにくくなった」と不満の声も上がっています。

「広告主やマーケティング担当からは不満は大きいし、既存のトラフィックのエコシステムはダメージを受けるが、ChatGPTやPerplexityなどとの競争を考えると、今後もグーグルはAI検索に注力してくるはず」とルドズキ氏は指摘しています。

「パープレ」から見える広告戦略の行方

AI検索の世界では、もう一つ見逃せないプレイヤーがいます。「Perplexity（パープレ）」と呼ばれるAI検索の先駆けスタートアップです。

実は、パープレは昨年11月の時点で、今回のChatGPTの「買い物」に似た機能をすでに始めていました。さらに興味深いのは、パープレは創業時点では「広告なし」を売りにしていたのに、2024年になって「広告の実験を開始する」と表明したことです。

そして、その効果もあってか、2025年には約1.3兆円もの評価額に達するとされています。今ではAIとのチャットの流れで表示される「追加質問」にスポンサードの質問を表示させるなど、様々な広告手法を試しているんです。

これは、かつて「広告なし」を貫いていたNetflixが2022年に広告ビジネスを開始し、今や戦略上も欠かせない存在となっているのと似た流れかもしれません。果たして、OpenAIも同じ道をたどるのでしょうか…。

私たちの「買い物」はどう変わる？

ここまで業界の動向を見てきましたが、これが私たち一般ユーザーにとって何を意味するのか、考えてみましょう。

まず確実に言えるのは、情報収集の手間が大幅に省けるということ。これまで複数のサイトを行き来していた作業が、AIとの会話一つで完結するようになります。「どのイヤホンがいいかな」と悩んでいたら、あなたの好みや予算に合わせて、AIが最適な選択肢を提案してくれる時代になるんです。

また、AIはあなたの過去の質問や反応から学習していくので、使えば使うほど、より的確なレコメンドができるようになります。まるで、あなた専属のショッピングアドバイザーのような存在になるかもしれませんね。

一方で、こうした変化は私たちのネットサーフィンの習慣も変えていくでしょう。これまではGoogle検索から様々なサイトへ飛び、そこで思わぬ発見をすることもありました。でも、AIが最適解を提示してくれるようになると、そうした「偶然の出会い」は減っていくかもしれません。

未来の「買い物」に向けて、私たちができること

AI検索の進化は止まらない流れです。そんな中、私たち消費者として心がけたいことは何でしょうか。

まず一つは、便利さに流されすぎないこと。AIの提案は確かに効率的ですが、時には自分の目で見て、触って、感じることも大切です。特に大きな買い物をする際は、AI検索を入口として使いつつも、最終判断は自分自身でするという姿勢が重要かもしれません。

もう一つは、この新しい買い物体験を楽しむこと。AIとの対話を通じて、自分では思いつかなかった選択肢に出会えるかもしれませんし、好みをより深く理解してもらえるよう、AIとの対話の質を高めていくのも一つの楽しみ方です。

「今、私の周りもそうですが、AIとの会話の中で、かなり自分に合った答えを詳細に検索してもらう経験を一度してしまうと、もう従来の検索に戻ることはありえません」

確かに、便利さを知ってしまうと後戻りはできないかもしれません。でも、それは単なる依存ではなく、新しいツールを賢く活用する術を身につけることで、より豊かな消費生活を実現できるチャンスでもあるのです。

AI検索がもたらす「買い物革命」は、まだ始まったばかり。これからどんな展開を見せるのか、ワクワクしながら見守っていきたいですね。

（参考：「【急展開】ついにChatGPTの「超本命機能」が登場した」森川 潤、NewsPicks NY支局長）