ChatGPTが46年前のゲーム機に完敗!?AIの「意外すぎる弱点」が教えてくれること

ChatGPTが46年前のゲーム機に完敗!?AIの「意外すぎる弱点」が教えてくれること

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スマホで何でも答えてくれるChatGPT。難しい質問にも瞬時に回答し、小説まで書いてくれる「なんでもできるAI」として、私たちの生活にすっかり馴染んでいますよね。ところが先日、そんなChatGPTが思わぬ相手に完膚なきまでに叩きのめされるという、衝撃的な出来事が話題になりました。

その相手とは、なんと1977年に発売されたAtari 2600というレトロゲーム機。つまり、最新AIが46年前の「おじいちゃんコンピューター」にチェスで惨敗したというのです。一体何が起こったのでしょうか?

90分間の屈辱:ChatGPTの驚愕チェス対局

事の発端は、Citrixのエンジニア、ロバート・カルーソ氏の面白い実験でした。彼は1979年に発売されたAtariのゲーム『Video Chess』を使って、ChatGPT(4oモデル)との異色のチェス対局を企画したのです。

結果は、ChatGPTにとって想像を絶する惨敗でした。カルーソ氏の証言によると、ChatGPTは基本的なミスを連発。ルークをビショップと勘違いしたり、ポーンによる簡単なフォーク攻撃を見落としたり、何度も駒の位置を見失ったりと、「3年生のチェスクラブでも笑われるような凡ミス」を繰り返したそうです。

最初はChatGPTも「Atariのアイコンが抽象的すぎる」と言い訳していましたが、標準的なチェス記譜に切り替えても状況は改善されず。それどころか、状況が悪化するたびに「やり直したい」とリクエストを繰り返す始末。90分間の対局で、ChatGPTは完全に初心者レベルのゲームに敗北してしまったのです。

まさに現代版「ダビデとゴリアテ」の物語。ただし今回は、小さなダビデ(Atari)が巨大なゴリアテ(ChatGPT)を見事に打ち倒したというわけです。

「なんでもできるAI」の正体を暴く

この結果を見て、「え、ChatGPTってそんなに弱いの?」と驚いた人も多いかもしれません。でも実は、これはChatGPTが「ダメなAI」だということではなく、私たちがAIの能力を誤解していることを示しているんです。

ChatGPTは「言語モデル」と呼ばれる種類のAIです。つまり、人間の言葉を理解し、自然な文章を生成することに特化しています。質問に答えたり、文章を要約したり、創作をしたりするのが得意分野。一方で、チェスのような論理的計算や戦略思考は、実はそれほど得意ではないんです。

これって、例えるなら「文学部の優等生にいきなり数学オリンピックの問題を解かせる」ようなもの。どちらも頭脳を使う作業ですが、求められるスキルは全く違いますよね。ChatGPTは言葉の天才ですが、チェスの計算マシンではないということです。

実際、チェス専用のAIやコンピューターは昔から強力でした。1997年にIBMのスーパーコンピューター「Deep Blue」がチェス界の伝説、ガルリ・カスパロフを破ったのは有名な話。つまり、コンピューターがチェスで人間を上回るのは今に始まったことではないんです。

レトロゲーム機の「意外な底力」

それにしても、46年前のAtari 2600がChatGPTを破ったというのは本当に驚きです。でも考えてみれば、これも納得できる話なんです。

Atari 2600の『Video Chess』は、チェス専用に設計されたプログラムです。容量の制限が厳しい時代でしたが、その分、チェスのルールと基本戦略に特化して作り込まれています。まさに「一芸に秀でた職人」のような存在。

一方のChatGPTは、あらゆる分野の知識を持つ「博識な教授」みたいなもの。幅広い知識はあるけれど、特定の分野での専門性では、その道一筋の専門家には敵わないということです。

これって、現代の私たちにとって大切な教訓でもあります。最新技術が必ずしも全ての面で優れているわけではない。時には、シンプルで特化した古い技術の方が、特定の用途では優秀だったりするんです。

AIとの「上手な付き合い方」を考える

今回の騒動は、AIに対する私たちの期待値を見直すきっかけになります。ChatGPTをはじめとする現代のAIは確かに素晴らしい能力を持っていますが、万能ではありません。

ChatGPTが得意なのは:

  • 自然な会話や文章作成
  • 情報の整理や要約
  • アイデアの提案やブレインストーミング
  • 言語の翻訳や解説

一方で苦手なのは:

  • 複雑な数学計算
  • 論理的なゲーム戦略
  • リアルタイムの情報更新
  • 100%正確な事実確認

つまり、「AI = なんでもできる魔法の道具」ではなく、「特定分野で強力な助手」として捉えるのが正解。適材適所で使い分けることで、AIの恩恵を最大限に受けられるというわけです。

おわりに:技術の進歩と謙虚さと

ChatGPTがAtari 2600に負けたというニュースは、一見するとネガティブに思えるかもしれません。でも私は、これを「技術の面白さ」を再確認する良い機会だと思います。

最新の技術が古い技術に負けることがある。専門特化したシンプルな道具が、高機能な最新機器を上回ることがある。そんな「逆転劇」があるからこそ、技術の世界は面白いんです。

そして何より、AIがまだまだ完璧ではないということを知ることで、私たちは技術に対してより謙虚で、より賢い向き合い方ができるようになります。AIは確かに便利ですが、批判的思考を忘れずに、適切な場面で適切に使う。それが、これからの時代に求められるリテラシーなのかもしれません。

次にChatGPTとチェスをする機会があったら、きっと今回の教訓を思い出すでしょう。そして、46年前のAtari 2600に感謝の気持ちを込めて、一局打ってみるのも悪くないですね。古き良き技術への敬意を込めて。

参考:CNET News(Omar Gallaga氏記事)2025年6月12日

芝先 恵介

芝先 恵介

メンター|生成AIスペシャリスト

外資系業務ソフト会社を経て2002年に起業、代表に就任。2013年に会社を売却し、翌年からスタートアップや大企業の新規事業立ち上げ支援に尽力。大学や公的機関での非常勤講師、DXアドバイザー、中小企業アドバイザーとしても活躍中。現在は、(株)01STARTを設立し、新規事業開発や営業DXのコンサルティング、生成AIに関するセミナーに数多く登壇。

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