AIが本を読んで学習するのは「アリ」なのか?〜Claude開発元の裁判が示すデジタル時代の新常識

AIが本を読んで学習するのは「アリ」なのか?〜Claude開発元の裁判が示すデジタル時代の新常識

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AIが本を読んで学習するのは「アリ」なのか?〜Claude開発元の裁判が示すデジタル時代の新常識

スマホで小説を読んだり、YouTubeで動画を見たりするのが当たり前になった今、私たちの身近にいるAIも実は大量の本や記事を「読んで」学習しているって知っていましたか?

先日、アメリカで興味深い裁判の判決が出ました。あの有名なAI「Claude」を開発したAnthropic社が、作家たちから「うちの本を勝手に使うな!」と訴えられていたのですが、サンフランシスコの連邦地裁は「AIが学習に使うのは合法」という判断を下したんです。

でも実は、話はそんなに単純じゃありません。今回の判決、よく読んでみると結構複雑で、私たちの未来の暮らしにも大きく関わってくる問題なんです。

AIは「読書家」なのか「海賊」なのか

まず、今回の事件を整理してみましょう。Anthropic社は、AI「Claude」を賢くするために700万冊以上の書籍を学習データとして使用していました。これに対し、3人の作家が「私たちの本を無断で使うなんて著作権侵害だ!」と訴えたわけです。

裁判所の判断は、なかなか絶妙でした。「AIが学習に使うこと自体は『フェアユース』という例外規定で合法」としながらも、「でも、700万冊の海賊版をコピーして保管していたのは著作権侵害」と言ったんです。

つまり、AIが本を「読んで」学習するのはOKだけど、本を「違法コピーして保管」するのはNGということ。なんだか人間の世界と似ていませんか?図書館で本を借りて読むのは合法だけど、その本を勝手にコピーして持ち帰るのは違法、みたいな。

この判決、実は生成AIに関する「フェアユース」の判断が示された初めてのケースなんです。AI業界にとっては、まさに歴史的な瞬間でした。

「フェアユース」って何?デジタル時代の新しいルール

「フェアユース」という言葉、普段あまり聞かないですよね。これは主にアメリカの法律で認められている概念で、簡単に言うと「著作権者の許可がなくても、一定の条件下では著作物を使ってもいいよ」というルールです。

例えば、ニュースで映画のワンシーンを引用して批評したり、授業で教材として小説の一部を使ったりするのは、フェアユースとして認められることがあります。要は「社会全体の利益になる使い方なら、ある程度は大目に見ましょう」という考え方なんです。

でも、AIの学習にこのルールを適用するのは、実は結構議論の分かれるところでした。人間が本を読んで学習するのと、AIが大量のデータを処理して学習するのは、本質的に同じなのでしょうか?

今回の裁判所は「AIの学習は変革的(transformative)で、新しい価値を生み出している」と判断しました。つまり、AIは単に本をコピーしているのではなく、読んだ内容を元に新しい文章を生成する能力を身につけているから、これはフェアユースに当たるということです。

ただし、この判断は「学習」についてのもの。実際に海賊版の本を大量にコピーして保管していた行為については、しっかりと「著作権侵害」と認定されました。12月には損害賠償額が決まる予定です。

私たちの生活にどう影響するの?

「でも、これって私たちの日常生活にどんな関係があるの?」と思う人も多いでしょう。実は、この判決の影響は思っている以上に大きいんです。

まず、AI技術の発展に与える影響です。もしAIが学習に既存の作品を使えなくなったら、ChatGPTやClaudeのような高性能なAIは生まれなかったかもしれません。私たちが普段使っている翻訳アプリや、スマホの音声認識機能も、大量のデータを学習して初めて実現できているものです。

一方で、クリエイターの権利も守られなければいけません。小説家やミュージシャン、イラストレーターなど、作品を作って生計を立てている人たちにとって、自分の作品が無断で使われるのは死活問題です。

今回の判決は、この両方のバランスを取ろうとした結果と言えるでしょう。AI の学習自体は認めつつも、違法コピーには損害賠償を求める。これは、技術の進歩とクリエイターの権利保護の間で、現実的な落としどころを見つけた判断かもしれません。

日本ではどうなるの?

気になるのは、日本での状況ですよね。実は、日本の著作権法は、AI学習に関してはアメリカよりもある意味で「進んでいる」と言われています。

日本では2018年の著作権法改正で、AIの学習目的での著作物利用について、一定の条件下で著作権者の許可なく利用できるようになりました。つまり、今回アメリカで裁判になったようなケースでも、日本では最初から合法的にAI学習が可能だったんです。

ただし、これは「学習」に限った話。生成されたAIの作品が既存の作品と似すぎている場合や、AIを使って意図的に既存作品を模倣した場合は、別途問題になる可能性があります。

また、日本でもAI生成コンテンツの商用利用や、AIに学習させるデータの取得方法については、まだまだ議論が続いています。法律は技術の進歩に追いつくのに時間がかかるものですが、AIの発展速度はあまりにも早すぎて、ルール作りが追いついていないのが現状です。

未来はどうなる?私たちにできること

この問題、実は正解がないんです。技術の発展を止めるべきではないし、でもクリエイターの権利も守らなければいけない。これは、デジタル時代を生きる私たち全員が考えなければいけない問題です。

個人的には、今回の判決は一つの重要な前例になると思います。AIの「学習」と「コピー」を区別し、技術の発展を認めつつも、明らかな著作権侵害には責任を取らせる。この考え方は、他の国々でも参考にされるでしょう。

私たちユーザーにできることは、まずこの問題について関心を持つことです。AIが生成したコンテンツを利用する時は、それが既存の作品の権利を侵害していないか考える。AI企業には、透明性のある学習データの利用を求める。そして、クリエイターの作品にはちゃんと対価を払う。

まとめ:共存の道を探る

結局のところ、AIと人間のクリエイター、そして私たちユーザーは、敵対する関係ではなく、共存していく必要があるんです。AIは確かに便利だし、私たちの生活を豊かにしてくれます。でも、人間が作る作品の価値がなくなるわけではありません。

今回のAnthropic社の判決は、その共存への第一歩かもしれません。技術の発展を止めることなく、でもクリエイターの権利もしっかり守る。簡単なことではありませんが、きっと良い解決策が見つかるはずです。

次にChatGPTやClaudeを使う時、ちょっとだけこのことを思い出してみてください。そのAIが賢くなるために、どこかで誰かが書いた本や記事が役立っているのかもしれません。そして、その「誰か」に対する感謝の気持ちを、私たちは忘れてはいけないと思うのです。

デジタル時代の新しいルール作りは、まだまだ始まったばかり。私たち一人ひとりが考え、議論し、より良い未来を作っていきましょう。「人類にとっての革新」と言えるでしょう。

芝先 恵介

芝先 恵介

メンター|生成AIスペシャリスト

外資系業務ソフト会社を経て2002年に起業、代表に就任。2013年に会社を売却し、翌年からスタートアップや大企業の新規事業立ち上げ支援に尽力。大学や公的機関での非常勤講師、DXアドバイザー、中小企業アドバイザーとしても活躍中。現在は、(株)01STARTを設立し、新規事業開発や営業DXのコンサルティング、生成AIに関するセミナーに数多く登壇。

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